三日月ロマンチカ 【短編】
腹一杯になったところで強烈な眠気が襲い、うとうとしてきた。
必死に意識を保とうと奮闘していると、女はいそいそと食器を片付け始めた。
……こいつ、とろくせぇ顔してんのに動きは早いのな…。
いよいよ我慢できず顔を突っ伏したおれに、女は優しい声音で言った。
「たろうちゃん、布団で寝てきなよ」
片手でスポンジを泡立てながら、女はそっとおれの頭を撫でた。
今までに何万回とされた行為なのに、柄にも無くびくりとしてしまった。
「たろうちゃん?」
女の顔が見れなかった。
一瞬だけ睡魔が飛んだ隙にさっさと布団に向かい、白い世界にもそもそと身体をねじ込んだ。
すっかり布団の熱はなくなったはずなのに、どうしてか暑くてたまらなかった。
「(……なんだ、これ)」
よくわからない感情と睡魔が激しくぶつかり、呆気なくも睡魔が勝利した。
鼻孔くすぐる仄かな香りを胸一杯に満たすと、おれはとてつもなく幸せな気分になった。