あげは蝶



「……らさんっ、むら…んっ!さむらさ……。笹村さんっ!」

どこかで聞いたこの台詞…


だれ……?
これを叫ぶのは。


あたしがパチッと目を
開けると涙目のザマ子が
あたしを見下げていた。


「ああ………笹村さん、気づいたのね。よかったわ…。」


「あ…ここ………。どこです…か……?」

どうもおかしい。


うまく呼吸ができない。
なんだか胸が痛む気がする。
なぜだか涙がつうっと目から溢れてとまらない。
だからザマ子が時々霞む。
寝慣れないベッド。
吸ったことのない空気。
なにか思い出せないようなつっかかる胸。
どこかに寂しげを帯びた心境。

全てがあたしには
理由なんてわからなくて。



ただただ、胸がざわめいて
不快極まりなかった。

どうしてここにいるのか…
そもそもここはどこなのか…
ザマ子が泣くなんてなんだか気持ち悪い。
夢を見ているのかもしれない。
なんて嫌な夢。
どうしてこんな始まり方の夢なんか見てるのか…
早く覚めたい衝動にかられた。



だれかここから救い出して。
訳がわからない。

理由もなく、なぜか涙が
でるワケを教えて欲しい。



涙が勝手に出る病気にでも
かかったのかもしれない。

なんて不快な…不快な……



不安の荒波に飲み込まれて、
そのまま意識を失った。




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