あげは蝶


−−−−−−懐かしいような空気
懐かしいような雰囲気

なんだろう。
気持ちも体もふわふわして
落ち着かない。



「あ……はっ!」

あ……は?


「げ…はっ、あ〜げはっ!」

だれ?
誰があたしを呼ぶの。


目の前にパッと広がったのは
白い家具で綺麗にそろえられた
狭くも広くもないリビングのようなとこ。


そこに、これまた白いソファーに座っているボブカットの女の人が
現れた。

「え……誰?」


全てが急な展開すぎて
訳がわからない。

ここがどこかもわからないし。



よく見ると女の人は
少し膨らんだお腹を
ゆっくりと愛おしそうに
さすっている。


「…妊婦さん?」



薄いピンクのカーディガンから少し
はみ出たお腹をさすっていた
女の人はお腹にむかって
喋りかけていた。


「あげは……私の大事な大事な赤ちゃん。」

「あたしが………大事な赤ちゃん?もしかして…っお母さんなの……っ?」



驚きを隠せない。


お母さんってどんなひとだろうか、とよく想像していた。



でもいつも
あたしを残して死んじゃうなんて…
とお母さんに対する
イメージはあまり良いものとは思えなくて。


だからといって恨みや憎しみを覚えるような
ものではなかった。

あたしを産んでくれたから!


お母さんは大好きだけれど、知らないものは知らない。

から、とくにイメージを
具体化してなかった。



と、お母さんと思われる
女の人はこう続けた。


「…あげは……産まれたら一緒に一緒に桜のある公園にお散歩に行こうか。きっとあげはの産まれる頃なら桜満開よ。きっと揚羽蝶もたくさん飛んでるわね…。夏はパパと海に行きなさい。……ママは体が弱いから出歩けないけど…これからいつでも一緒よ……。大事な大事なあげはと一緒にいられるなんて、夢みたいだわ…。ふふ………」



お母さん…こんなことを
想っていただなんて……。

お母さんに対する感情は
不満から心地好い愛情へと
徐々にかわってゆくのを
あげはの小さな体でも
汲み取ることができた。



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