あげは蝶
「手、どけて。」
いつもの柔らかい笑顔からは想像できない形相でこちらをまじまじと見ている。
「な、に?しま…。」
「いいから早く…授業、始まっちゃうよ。」
「え……。あっ、んっ!」
しまは突然むりやり手を引っぺがして汚いメイクでぐちゃぐちゃのあたしの顔に冷たい何かを当てた。
「な、にこれ…!……むぐっ。」
この匂い…。
メイク落とし!?
いくらなんでもメイク落とすなんてぐちゃぐちゃメイクより悲惨だよっ。
やだっ……。
中学の頃の顔を見せるなんて…。
またいじめられるかもしれない。
ブスって教科書に書かれたり…。
廊下でふいにボソッと暴言を吐かれたり足をかけられたり……。
直接殴りかかるような
いじめではなかったけど毎日が窮屈で…。
そんな毎日を過ごした顔なんてさらしたくないよ………っ!
「…よし。」
しまは納得したようにこちらをみた。
……お願いだから…
「じゃああと10分で授業始まるけどメイク、しちゃうよん♪」
しまは可愛くウインクしてみせた。
「え……は…?って…えと。えっ!?」
「やだなー。もう。あたしがすっぴんをさらさせる訳ないっしょ。こう見えても厚化粧っコなんだから。その気持ち、痛いほどよくわかっちゃう!」
しまはニコニコと自分のポーチから道具を取り出すと、それをブツブツ言いながらあたしの顔にのせてゆく。
「ごめんっ。急に何されるのかと……。」
あたしは頑張って過去を繕わなきゃいけないんだ。
あんな不愉快な過去、誰にもさらすものか。
あたしは今があればそれでいいんだ。
昔や過去みたいなものにはまとわれない。
今 がいい。
昔 はまるでだめ。