あげは蝶
さっきから周りの雑音が聞こえない。
どーしたんだろーか。
風邪引いたのかな?
早く帰りたい。
胸騒ぎで息がとまってしまいそう。
きゅうっ、と胸を抱きしめる気持ちにあがらえなくなる。
どしちゃったの、あたし!
そんな自分を想像すると、少し笑みがこぼれた。
「ちょっとあげは…だいじょぶ?」
「へ?うん!何でもないよ!」
さっきまでしまに嫉妬してたのが嘘みたいに気持ちが晴々した。
「…ふぅ。」
嫉妬も胸騒ぎも全部おさまった。
多分疲れが溜まっていたんだろう。
慣れない環境で頑張ってるんだし。
家で休めば、きっと平気。
「おー。そーいやあ自己紹介まだだったな!名前は工藤トシ。数学担当!よろしくな。今日からここのクラスの担任だ!」
工藤先生はにっこり笑いかけた。
"ここのクラスの担任"
その言葉に少し胸が躍る自分がいるのが不思議でたまらなかった。
「高橋先生よりも馴染むぞぉー!」
「だーじょぶだって!タカセン馴染むどころか蔑まれてたから!」
しまがニヤニヤ工藤先生に話し掛けた。
もうそんなスキンシップとれるなんて…
少し胸が痛む訳もわからなくてしまを見つめた。
そんなとき−−
「はあい☆工藤センセ♪あ、やっぱトシって呼ばせてもらってもいいかな?」
−−誰?
声の主はあたしの横の横に座る、星和歌子というコだった。
「ト、トシ?先生に向かってなんとゆー口ぶりでいらっさるんだね!」
工藤先生はハハハッと星さんを見て笑った。
「あ、星和歌子っていいます♪ワカって呼んでね!ワカコなんて読んだら……殺すから♪今時、子なんてつけたくないっつの。古臭い。ばーちゃんね、ワカが古臭い名前で呼ばれてもいいのか、って言ったらさあ、お前はワカコだろ、って!話になんなぁーい!」
星さんの言わんとしてることがわかんないよ…。
クラス中からどぉっと笑い声があがる。
星さんはその笑い声に応えるように周りに笑顔を振り撒く。
なんて可愛いコなんだろ。
しまと同レベル、
いやそれ以上かもしれない。