単細胞生物
柔らかく、穏やかな日常。菜々との時間は、楽しかった。
だからこそ、その関係を壊したくなかった。
菜々の気持ちに気づいていないわけではなかったが、僕は知らないふりをした。
どうしてだろう。近くにいるのは菜々なのに。僕を癒してくれるのも菜々なのに
僕が欲したものは、呼吸の仕方を忘れさせ、胸をにぎりつぶすような痛みだった
痛みを感じることが少なくなったある日。
僕に手紙が届いた。
曲線がとがった、母特有の細い文字。
「雪が倒れたわ。あなたには言わないように言われたけど………。半端な気持ちで会いにこないで。あなたは大事な息子よ。本当に。
けど私の大事な娘を傷付けるなら許さないわ。」