単細胞生物
意識より先に身体が動いた。翌日には必要な荷物をまとめていたし、後は汽車に乗って空港に行くだけだった。
僕の心を揺らしたものといえば、玄関先で口をかたく結び、泣きそうな顔をしていた菜々の存在だった。
「どうしたの?」
軽く聞こえるように努力した僕の声は、少しうわずっていた。
「学校で様子がいつもと違ったから。」
菜々の声はか細く、いつもより枯れていて、とても聞き取りずらかった。
「少し故郷に帰るだけだよ。」
「戻ってくるの?」
「わからない。」
瞬間、菜々の目からたまっていた大量の涙がこぼれおちた。