単細胞生物
雪の下駄箱に花柄の小さな置き手紙が入っていたのは僕が学校で熱を出した日のことだった。
仕事中で学校に来ることが出来なかった母の代わりに彼女は僕をおぶって家に帰ろうとしてくれたのだ。
下駄箱に着いた時、雪の肩越しに見えた、細い震えた文字。
それはちょうどその時間に校舎の裏の桜の木に行くことを指示していた。
彼女はそれをポケットに入れた。
「行かなくていいの?」
僕の問いに、彼女はまるで今日の天気を聞かれたかのように、何気なく言った。
「行かないわ。だって蒼がいるじゃない。」
彼女の態度は何も変わっていなかった。
それは僕の小さな罪悪感を巨大なもの変化させ、彼女から自立するきっかけとなったのだが。
次の日の学校でやはり彼女は大多数の人間から非難めいた目を浴びていた。
もちろん彼女の友人たちは事情を知ってかいつもと変わらない態度であったが。
その日から僕は1人で行動するようになった。