あの日のキスを、きみに。
*10:もう一度キスを
彼があたしを好きじゃないことくらい、そんなのは最初からわかっていた。
わかっていたけれど淡い期待を抱いて彼の誘いにのったのは、あたしは彼を好きだったから。
好きだったからこそ、心のどこかで彼とこういうことになるのを、あたしは望んでいたのかもしれない。
それでも、いざとなったときにふと気づく。
本当にこれでいいのか、と。あたしは後悔しないのか、と。だからあたしは、結局彼を拒んだ。たった一度のキスを最後に。
「……もう、いいよ。帰る。」
そう言った彼の、表情を見ることはできなかった。きっと今日限り彼に会えなくなると、なんとなくそんな気がしたから。
「…っ、待って。あなたのことが、嫌いな訳じゃないの…!あなたのことは好きだけど、でも……、」
もう遅いのだと、それはわかっていたけれど。縋り付くように必死で言い訳を並べ立て、彼の袖を握る。
けれど彼はもうあたしに視線さえも向けないまま、無言であたしの手を振り払った。
――まるで、あたしたちの関係の終わりを告げるように。
遠ざかっていく足音に、もう振り返らない背中。
二度と彼に抱きしめられることはないのだと悟り、振りほどかれた手を涙とともに抱きしめた。
もう一度キスして
( もう戻れないと )
( それはわかっていたけれど、 )