たからもの
「あの、古橋くん」

「ん?」

「えっと、南くんは大丈夫だったの?」

「南……あ、柚葉ね」

隆人は遠い昔の事を思い出すように目を細めた。

「医者から出された薬ね、飲み忘れてたんだって。薬出された時は忘れないようにって、毎回言ってるのに」

「薬は毎日飲んでるの?」

「最近はそうでもないよ。有原さんは優しいね」


「え!?」

いきなり褒められて、翼は目を見開く。

「いや、本当に苦しそうだったから。うちの家族って健康で、風邪とか滅多に引かないの。だから、ああいう光景って見た事ないからびっくりしちゃって……」


「柚葉見てると本当にさ、健康な身体って当り前の事じゃないんだなぁって思う。物心ついたときから一緒にいるから余計にね」


「そうだよね……」


拳を握ったり、開いたりする。
きっと、こうやって手を動かす事も、当り前の事じゃないんだ。

真面目な顔で自分の手を見つめている翼を、隆人は笑って見ていた。
< 17 / 44 >

この作品をシェア

pagetop