たからもの
翼はふーっと息をつく。

「よかったね、翼」

今日香は人差し指で翼の頬を突く。

「うん、ありがと」

「じゃー、今からカラオケ行かない?」

隆人と翼の間に入って柚葉が言った。しかしそんな柚葉の頭を隆人は軽く叩く。

「ばぁか。お前は今日はさっさと帰るんだよ」

「お前は、って。まさか隆人、てめー……」

「大丈夫、俺も帰る」

「薬飲み忘れた事、母さんに言いつけるつもりだろ」

「さあ?」

「やめてくれよ、またうるさく言われちまう」

「うるさく言わなきゃ分かんないだろ、お前は」

隆人と柚葉が言い合っていると、駅を歩く多くの人をかき分けて、1人の男子高校生が翼の前に飛び出してきた。
学校の名前が刺繍された、黒のエナメルバッグを背負い、黒の学ランがよく似合う顔立ちだった。

その高校生は翼の前に右手を差し出した。

何事だ?という風に、隆人、柚葉、今日香は2人を凝視する。
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