たからもの
そして話に乗せられて、相手のフルネームを教えてしまう。
これもいつもの事だ。

「でもさ、古橋隆人ってどっかで聞いた事ない?」

ニカニカ笑っていた陽が急に真面目な顔になる。

「さあ?私は高校で初めて聞いた名前だったけど。どっかのチームと同姓同名だったんじゃないの?」

「あ、そうか」

「それより、ヒナちゃん。あんたいっつも私の好きな人聞き出してさ、自分はどうなのよ」

自分よりも20cmは高い弟の肩に、頑張って腕を絡める。陽は大分前かがみになった。

「うちの部は基本、恋愛禁止」

「うそ、マジで?」

「引退するまではダメって事になってるよ。良かったなー、これで当分やきもち焼かなくて済むぞ。可愛い可愛い弟は、後1年は翼お姉ちゃんのものだよ」

声色を変えて、高い声で翼をからかう。カチンときた翼はそのまま陽にぶらさがった。

「ばーか、やきもち焼いてんのはヒナちゃんの方でしょ。もしね、ホントにね、私に彼氏が出来たら、思いっきり自慢してあげるからね。泣くんじゃないわよ!」

「泣くかよ、ブス!重い、離れろ!!」

「なんだと!?」

回し蹴りでもお見舞いしてやろうと思った所に、聞きなれた声がそれを止める。

「こら、2人ともご近所さんに迷惑でしょ。やるなら家で!」
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