たからもの
2章 5月

誕生日

「翼ちゃん」

学校の廊下をのたのた歩いていると、男子が呼ぶ声が聞こえた。振りかえらなくても、誰だか分かる。翼の事を「翼ちゃん」と呼ぶ男子はひとりしかいない。

「隆人くん!」

隆人は生徒会室から出てきて、翼の元へ駆け寄った。

「体育祭のメンバー表、今出してきたから」

「ありがとう。ごめんね、色々任せちゃって」

「ううん」

翼たちの高校では、体育祭は毎年6月に行われる。クラス替えをしたクラスで、少しでも団結力を深めるために、早い時期に行われてきた。
体育祭のおかげで仲良くなれた、という声は少なくない。

「翼ちゃんは何に出るんだっけ?」

「私?私はバスケ。これでも中学はバスケ部だったんだよ。才能ないから高校では入部しなかったけどね。今日香は経験あるからバレーボールなの。隆人くんは?」

「俺はサッカー。柚葉はちょっと分からないなぁ。本人はやりたかってるけど、去年も無理して大変だったし」

「そっか。何かあったら大変だもんね……」

2人並んで廊下を歩く。
少し前まで隣に並ぶ事すら出来なかったのに、一緒に学級委員をやることで、他愛無い話をできるようになった。
少し前の自分では信じられない。

それでもやっぱり、女子からの「あの女、誰!?」的な視線が気になり、そこで自分は凄い事しているんだと気付く。
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