たからもの
 
 
彼を好きだと自覚したのは、もういつだか覚えていない。

1年生の初めだったような気もするし、2年生の夏休みだったような気もする。


とにかく彼の笑顔に一発で心を撃ち抜かれた。
惚れたきっかけは、笑顔だった。


もちろん優しいし、気が利くし、大人しめでクラスに馴染めない翼に、いつも話しかけてくれた。


だけど、やっぱりどこが好きか、と言われたら「あの爽やかな笑顔」と答えるだろう。


「笑顔は人を元気にしてくれる」なんて綺麗事だと思っていたがそうでもないらしい。


「ほれほれ。さっさと見に行くぞー」

今日香は、さっきよりさらに縮こまった翼の背中を押した。


2人の名前は3年6組に並んであった。


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