あい
彼女を初めて見掛けたのは、ちょうど一週間前のこの時間。
街中を、金色の髪をなびかせながら、終始下を向きながら歩く彼女。
ようやく視線を上げた先が、このなんとも言えないビルの前で
その暗い階段を、ヒールの音だけを響かせながら歩くその後ろ姿を
なぜだかあたしは目を反らすことができなかった。
『あんたここがなんのビルか分かってきてんの?』
『……いえ』
『でしょうね』
ぐしゃっ、と
地面に落とした煙草をヒールでぐりぐりともみ消す彼女。
"ついといで"、と言われてるような気になった。
彼女は私のことをちらっと見ると、くるりと方向を変え、再び薄暗い階段を登り始めた。
"あんたここがなんのビルか分かってきてんの?"
分かっていたような、気がする。
彼女のあとを急いでついていく。外観で想像するよりも、その階段は、異様に長く感じれた。