彼の失敗は言えなかったこと
「ばか。ばかぁ……」
憎い。ふられたことがではない。
ましてや、尽くしていたことに対してでもない。
理由を告げずに離れたことが、なによりも憎い。
何時の間にかギプスがなくなっていた時は、どんなに安堵したことか。
憎い筈なのに、まだ引きずっている自分が最も憎い。
右腕が治るまででも、世話をしてあげたかった。
せめてもの償いに……。
「え……?」
右腕……?
治った筈……。
いつから飲み物を左で持つようになった?
なぜ布団を左だけで?
右手のペアリングは?
ギプスのある時から私がつけたリング、つけている理由は戒め。
『あんたこそ、その生き方疲れない?』
『疲れたよ。だけど性分でね、この性格は変えられない』
リングが外せなかったら?
まだ右が使えないのなら?
『あかりは悪くないさ』
「航!」
迷惑をかけたくないから、という馬鹿げている身勝手な律義さで、別れたとしたら?
私は貴方を許せないかもしれない。