彼の失敗は言えなかったこと

「ばか。ばかぁ……」


憎い。ふられたことがではない。
ましてや、尽くしていたことに対してでもない。


理由を告げずに離れたことが、なによりも憎い。

何時の間にかギプスがなくなっていた時は、どんなに安堵したことか。


憎い筈なのに、まだ引きずっている自分が最も憎い。


右腕が治るまででも、世話をしてあげたかった。
せめてもの償いに……。


「え……?」


右腕……?

治った筈……。


いつから飲み物を左で持つようになった?

なぜ布団を左だけで?

右手のペアリングは?
ギプスのある時から私がつけたリング、つけている理由は戒め。


『あんたこそ、その生き方疲れない?』

『疲れたよ。だけど性分でね、この性格は変えられない』


リングが外せなかったら?

まだ右が使えないのなら?


『あかりは悪くないさ』


「航!」


迷惑をかけたくないから、という馬鹿げている身勝手な律義さで、別れたとしたら?


私は貴方を許せないかもしれない。



< 10 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop