彼の失敗は言えなかったこと
揺れる灯り
冷めたコーヒー
月明かり差し込む
保健室に
膝を抱える私
あいつはあいつで
椅子に座り
足を組む
「ったく、いつまで意地張ってんだよ。疲れない? その生き方」
「黙りなさい」
「ふぅ~。……まだ引きずってんのか?」
「黙れ、裏切り者!」
「おっと、酷ぇ言い草。傷つくねぇ」
この男はどこまで、どこまで私をバカにすれば気が済むの!? 本当に腹立たしい……!
「俺と同じ空間にいるのがそんなに嫌か」
「えぇ、嫌ね」
「即答かよ。でも朝までは諦めろ。というか我慢してくれ」
言われなくても。私だって退学はしたくない。
不意にひじ掛けに置かれた、こいつの左手に目が行った。本当になんとなく。
「新しい彼女出来たんだ。左手につけちゃって婚約? おめでとう」
左手、薬指に光る、シルバーリング。
「嫌味でもそんなに単調な言い方はないぞ。それに俺がつけたわけじゃない」
「彼女に丁寧かつ愛情たっぷりでつけてもらったんだ。ごちそうさま」
「彼女なんかいない。そんな暇もない」
「は? じゃあ自分で――」
「お前がつけたんだろうが。空気、読めない奴め」
「は!? なんでそんなものまだつけてるのよ!?」
「戒め。嫌なら外してかまわない」
相変わらず意味がわからない。