彼の失敗は言えなかったこと
1年前の秋、私とこいつがまだ交際していた時のこと。
本当はなんて事のない、静かな通り。いつもの帰り道の筈だった。
「ねぇ、今日航の家に行って良い?」
「まぁ、バイトもないからいいけどさ、いろいろまずいだろ」
指を絡ませ歩いた帰り道。今となっては、ただの記憶。歪んだ映像に過ぎない。
「男なら男らしくイきなさい」
「おかしくね!? こ、心の準備が……」
「頑張りなさい、性・少年」
「わざとだな!? ちくしょ~」
私としては嬉しい日々だった。
航は誠意も心遣いもあったし、何より気飾らない。だから、笑えてた。
それでも、人は生きているうちには、過ちを繰り返す。
「仕方ない。そんなチェリー君には、ココアを買ってあげよう」
おそらく、あの帰り道での私の失敗は、あいつの指から離れたこと。
「あかり?」
「大丈夫、そこの自動販売機にあるから」
そして――
「え?」
「あかり!」
車道へ出るまで、蛇行している車に気付けなかったこと。