彼の失敗は言えなかったこと
あいつが退院してから、私は家事に勤しんだ。
片手で料理をしようとする、あいつを押しのけたり、洗濯を干そうとするあいつを押しのけたり。
ご飯は右利きだったあいつに食べさせたり、左でも箸が持てる様にしたりと、いろいろやってきた。
お風呂は背中を流す程度だったが、さすがにお互いの為に、タオルは巻いてもらった。
きちんと腕が治ってから、という約束で。
学校も行きながらで、確かに大変ではあったが、何より楽しかった。
親も快諾してくれ、気兼ねなく過ごせていたからかもしれない。
それでもやっぱり、形あるものはいつか崩れてしまう。
「なん、で……?」
「ごめん。許すなとは言わない。限界なんだ」
「何か悪いことしちゃった? 余計なお世話だった?」
「違う! あかりが居てくれて、ホント助かったよ。楽しかったし、嬉しかった」
つい先日、イタズラでつけた左薬指を見て、あいつは懐かしむかのように微笑んだ。
「だったら、なんで別れるの」
「ただ、俺の限界なんだ。あかりは悪くないさ」
「わからないよ! 今、航が何を考えてるか、わからないよ……」
別れた際は怒りよりも戸惑いが大きかった。
特にケンカした訳でもなく、思い当たる節がない。
利用されただけかというと、あいつの性格上、それはない。
むしろ、利用されやすい側だ。
なら何故、あの木枯らし吹く放課後に、別れを告げられたのか。
今となっては、どうでもいいことだ。
ただ、今抱く感情は憎しみ。
頑張って支えていこうと決心した矢先の出来事なだけに、忌々しい。