彼の失敗は言えなかったこと

あいつが退院してから、私は家事に勤しんだ。


片手で料理をしようとする、あいつを押しのけたり、洗濯を干そうとするあいつを押しのけたり。


ご飯は右利きだったあいつに食べさせたり、左でも箸が持てる様にしたりと、いろいろやってきた。



お風呂は背中を流す程度だったが、さすがにお互いの為に、タオルは巻いてもらった。

きちんと腕が治ってから、という約束で。



学校も行きながらで、確かに大変ではあったが、何より楽しかった。
親も快諾してくれ、気兼ねなく過ごせていたからかもしれない。


それでもやっぱり、形あるものはいつか崩れてしまう。



「なん、で……?」

「ごめん。許すなとは言わない。限界なんだ」


「何か悪いことしちゃった? 余計なお世話だった?」


「違う! あかりが居てくれて、ホント助かったよ。楽しかったし、嬉しかった」


つい先日、イタズラでつけた左薬指を見て、あいつは懐かしむかのように微笑んだ。



「だったら、なんで別れるの」

「ただ、俺の限界なんだ。あかりは悪くないさ」

「わからないよ! 今、航が何を考えてるか、わからないよ……」



別れた際は怒りよりも戸惑いが大きかった。


特にケンカした訳でもなく、思い当たる節がない。



利用されただけかというと、あいつの性格上、それはない。

むしろ、利用されやすい側だ。



なら何故、あの木枯らし吹く放課後に、別れを告げられたのか。

今となっては、どうでもいいことだ。



ただ、今抱く感情は憎しみ。

頑張って支えていこうと決心した矢先の出来事なだけに、忌々しい。

< 9 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop