KANKERI
あの自分の死亡を伝えたニュースのアナウンサーらしき人の声も。
 霧の中をひたすら歩く。
 前は、見えない。
 ここは、どこなんだろう。
 これからどうなるのだろう。
 奥から、泣き声が聞こえた。
 アヤカは引っ張られるように、その方向へ歩き出していた。


「ママ、ごめんね。」
 シホは泣きながら、携帯をポケットから取り出した。
「沖野…さん?」
 シホは、携帯の電源を切ろうとしていた。
「ちょ、ちょっと!なにやってんの?」
「離して下さい!ほっといて!」
「バカじゃないの!切ったらどうなるかわかってんの?!」
 アヤカは、シホの手から携帯を取り上げ、電源が切れていないことを確認した。
「私、恐い。」
「私だって…でも、沖野さんもみたでしょ?」
 高木ミナが消えたあの光景が蘇る。
 シホは、小さくうなずいた。
 アヤカは、シホに携帯を返しながら言った。
「本当に、消えちゃったんだから…、信じたくないけど。」
 シホが話し始めた。
「私、自殺したんだと…思います。」
「自殺?」
「少し思い出したんです。ここへ来る前のこと。」
 アヤカは、何も返せなかった。
「急に、頭が痛くなって、目を瞑ったら…」
「目、瞑ったら?!」
 アヤカは、シホの肩を掴んだ。
 シホはビクッとしながらも、
「うん。そしたら、学校の屋上から飛び降りる私が見えたんです。」
 アヤカは驚きを隠せなかった。
 あのとき清水が言った『目、閉じて』の言葉を思い出した。
「そういえば、あのとき清水さんも頭、押さえてましたよね?」
「うん。…でも、なんでもないって、あの時は言ってたけど…」
「きっと、清水さんも見たんだと思います。」
「…なにを?」
 すでに死んでいる人間が集まって、言ってみれば、生き返る為に戦ってる。 
 そんなことあるの?
 死んだらみんな、天国か地獄に行くんじゃないの?
 ここはどこ?
 あの声はだれ?
 アヤカは、携帯をシホに返した。
「でも、どうして飛び降りたのかがまだ、思い出せなくて。」
「そう。」
「恐くなって、目開けちゃったから…」
 無理もないとアヤカは思った。
「一緒に、帰ろう。」
 と、自分に言い聞かせるようにシホに言った。
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