KANKERI
「出ておいで〜どこにいるのかなぁ〜、どうせ負けんだよお前らはよぉ!さっさと出てこいよぉ!」
 荒井は、誰も缶を蹴りに来ないことに、少し苛立っていた。
 人影を感じたのは、その直後だった。
 荒井は、笑みを浮かべ…息を飲んだ。
 風の音すらも聞こえない無の空間…
 荒井は、人影の方へと、一歩、また一歩と近づいていく。
「誰かいるのかなぁ〜、でておいで〜」
 静かに、荒井は独り言のように呟きながら、一歩ずつ腰をかがめて歩いていく。
 そのときだった。
 荒井の前に飛び出したのは、紛れもない、沖野シホだった!
 泣いているのを見て、荒井はさらに興奮した。
 ふぉーぅ! 荒井は完全にクルっていた。シホを何度も確認し、余裕をみせながら缶に向かって走る。
 シホも必死だった。が、陸上部の足に、勝てるはずもなかった。
志保は、大粒の涙を流しながら…
缶の前で…
つまずいて転んでしまった

「あ〜あ、おしいなぁ〜。沖野さんだっけ? …さいなら。」
 荒井は、静かに缶を踏んだ。
 缶を踏んだ瞬間、アヤカを掴んでいた清水の手は離れ、アヤカは飛び出していた。
「あははははは!やっぱり勝つのはこの俺様なんだよ!」
 荒井は自分で缶を倒し、転がしながら言った。
 アヤカがみた光景は、シホの倒れているうしろ姿と、缶は、荒井の足の下にあった。
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