KANKERI

「そんな…」
　手遅れだった。
　シホを守ることが出来なかった。
　シホの寂しさは、孤独は、私にもわかっていた。
「沖野さん！」
　アヤカは、シホの元へ駆け寄った。
「戸田さん、私、思い出しました。」
　シホはなぜか、安堵の表情を浮かべていた。
「しっかりしてよ！ねぇ、沖野さん！」
　アヤカはシホの体を揺らす。
「ありがとう。」
　シホは晴れやかな顔をしている。
　アヤカには、その言葉がすごく重かった。もう、手遅れだったから。
「沖野さん…自殺した理由って、もしかしてイジメ？」
　えっ？　という表情で、シホは振り向いた。
「私も、中学の時、いじめられた経験があってね。すごく辛かったし、恐かったし、死のうとしたこともあったの。」
　アヤカは、袖をめくり、腕を見せた。
　そこには、消えることのないリストカットの傷が残っていた。
　こんなしっかりしたアヤカが？　とシホは驚いた。
「でも、ある日ね。転校生がうちのクラスに来たの。すごく明るい女の子で、その子にはすぐにお友達が出来たの。羨ましかった。」
　アヤカは、袖を戻し、傷を隠した。
「クラスの全員で、私を無視するって約束を、あの子はまだ知らなかったから、休み時間、私に話しかけてきたの。」


「私は、前田ユカ。あなたは？」
　転校生のユカがアヤカに話しかけた事で、今までうるさかった教室が、一気に静まり返った。
　アヤカは、まわりの視線が恐かった。
「私に…話しかけないほうが、安全だと思う…」
　アヤカは、教室を出た。視線が恐くて、机に座っていられなかった。
「ねぇ、どうしてよぉ？」
　ユカは、キョトンとした表情で周りを見た。
「みんな、どうしたの？」

　その日から、ユカはアヤカに話しかけるようになった。
　おはよう！　から始まり、また、明日ね！　で終わる毎日。
　でも、アヤカは無視をし続けた。嬉しかった。でも…
　私と仲良くすると、彼女もいじめられてしまうのではないか。
　アヤカは、それが心配だった。