KANKERI
「目を閉じたら、ここに来る前の記憶が戻って、自分が死んだってことがわかる。でも、それだけじゃない。きっとみんなに、死ぬ前にやり残したことがあるんじゃない?」
 アヤカは全員に語りかけた。
「私が自転車で交通事故にあって死んだのは、みんな知ってるよね?」
 携帯から聞こえていたニュースらしき音を忘れる者はいなかった。
「私、イジメをなくしてくれたのが、ユカだって聞いて、急いでユカに会いに行ったの。ユカ、遊ぶようになったって、何にも言わないんだもん。クラスの友達から聞いたとき、学校帰りで、家の方向も違うから、急いで引き返したの。…でも、事故にあって…。」
 周りのみんなにも、図星のようだった。
 全員に、やり残したことがあった。
「私、ユカにありがとうって言えなかった。」
 シホは、自分のイジメと照らし合わせるように聞いていた。
「沖野さんにも、いるんじゃないの?」
 ママの顔が浮かんだ。
 シホを影でずっと支えていたのは、母親だった。
 シホがまだ幼い頃、父親がガンで他界。女で一つでシホを育てた。
 どんなに仕事が忙しくても、夕食は必ず一緒に食べようと決まりだった。
 シホが起きる頃には、もう母は出勤していた。
 だから、学校を無断で休んだ。行くのが恐かったから。
 きっと学校から母に連絡は行ってたと思う。
『娘さん、今日も登校されてないのですが…』
 母は、シホが不登校をしていることは気付いていた。
『すみません。体調が優れないようで、今日もお休みさせて頂きます。』
 と、担任に嘘をつき続けていた。
 夕食の時も、母はシホに質問した。
「今日、学校どうだった?」
「うん、いつも通りだよ。」
 そう。 と母は、会話を合わせて、シホにはあまり深く話を聞くことはなかった。

「…ママを楽にさせてあげたかった。」

 携帯が鳴った。シホの別れを知らせるメールだとアヤカはすぐにわかった。
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