KANKERI

『高木ミナは、私が初めて受け持ったクラスの生徒でね。当時は、ガングロにコギャルなんて言われてた時代かな。まったく、あの生徒には参ったよ。沖野シホは、気の小さい子でね。イジメもＰＴＡでは問題になっていた。まぁ、私が受け持っていた頃はイジメはなかったから、助かったよ。そして、荒井シンジだ。彼が、私の人生を踏みつぶした。ナオヤ、荒井シンジが私たちの幸せな家庭を、家族を崩壊させたんだよ。たった一人の生徒のくだらない愛だかなんだか知らないが、そんな小さな事件が私たちをもダメにしたんだ！」
「それは違う！」
　静かに聞いていた清水が言った。
「親父、…間違ってるよ。いくらでもやり直せたし、家族みんなで、もう一度１から頑張ろうって、話したのに…なんだったんだよ。」
『私には、教師の仕事しかないんだよ。教師になるために、いい高校出て、いい大学出て、やっと教員採用試験に合格したんだ。」
「じゃあまた…」
「簡単に言うな！！私の今までの苦労が一瞬にして崩れたんだ！たった一人の生徒のせいでな！許さない。さぁ、私と勝負しろ！」
　清水は自分の親父だと信じたくなかった。

　霧の向こうからでてきたのは、紛れもない清水の父だった。
　学校の先生とは思えない、ボサボサな髪のスーツ姿で薄気味悪かった。
『これは、生き返りを賭けた、ゲームだ！　あはははは！』
　清水は父の姿をみていられなかった。