KANKERI
「いくぞ…」
 清水は腕時計を確認し、カウントをした。午後四時十九分。
 制限時間まで、あと三十秒。

「十…九…八…七……」
 アヤカも準備をした。清水くんの思いを胸に抱いて。
「六…五…四…三…二…一……」

 二人は、オニが背を向けた瞬間、一気に飛び出した。
 清水の父もすぐに気づき、缶に向かって走りだした。

「うぉぉおおお!」
 清水は大きな声を出すことしか出来なかった。
「ナオヤぁ!」
 清水の父は名前を叫び、缶をしっかりと踏みしめた。
「あはははは!勝ったぁ! うっ……」
 清水の父の勝利の声は、途切れた。
 清水に力の限り、突き飛ばされた。
「ナオヤ…お前…」
「まだ、終わってないよ。父さん…」
 父の目の先、ナオヤのうしろには、息を切らしたアヤカが立っていた。
「おぃ、やっやめろ!」
 アヤカは、消えかかる清水の目をしっかりと見つめながら、地面に置いてある缶を思いっきり、蹴った。
 缶は高々と宙を舞い…そして、落ちて転がった。
 アヤカはそのあとすぐ、気を失った。
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