僕等の軌跡
ある日の帰り道、私はわざとゆっくり歩いた。
左手にお守りを握り締めながら…。
「じゃ、まぁ…うん。おやすみ。」
「あ、はい。」
渡せない。
でも渡したいの…精一杯の私の気持ち。
もう繰り返しちゃ駄目。
お菓子の時とは違うの。
大丈夫。頑張れる。
「中川先生!!」
急いで振り返って、先生の名前を呼んだ。
でも…そこに先生はいなかった。
先生は小走りしてて、ずっと遠くにいた。
その時勝手に足が動いていた。
私は無我夢中で、先生を追いかけて走った。
ずっとお守りを作りながら、何て言おうって考えてた台詞…。
"作ったからもらって下さい"?
"試験頑張って下さい"?
分かんない。そんなの知らない。
もう頭の中の台本なんていらない。
一瞬一瞬、ありのままの私でいけばいいんだ。
きっと大丈夫。
先生との距離が20メートルくらいになった時、先生は走るのを止めて振り向いてくれた。
「相原さん!?」
「…はぁ…はぁ…っ。…たし…私…。先生に渡す物があります!!」
お守りをギュッと握り締めた左手を前に出す。
勢いでつられたのか、先生も右手を表向けて前に出す。
「誕生日プレゼント…。試験の前日に…見たら分かるんですけど。開けられるんで、中に入ってるものみて下さい!!今は…えっと、帰ってからみて下さい!」
とてもぎこちなかったかもしれない。
でも渡せた…言えた。
ほら、台本なんてなくて大丈夫。
ちゃんと、不器用でもいい。
言葉にすればきっと伝わるから…。
「わざわざ走ってきてくれたの?ありがとう…。」
中川先生はそういって、優しく笑いかけてくれた。
「…でも!危ないから!送ってる意味ないから、これじゃあ!」
「ご…ごめんなさい。」
「…ほら、行くよ。もう1回送るから。」
中川先生の後ろをついて行く。
こんなにも近いのに、中川先生をすごく遠くに感じる。
「先生!!」