僕等の軌跡

「笑え…。笑うの。」

自分に必死にそう言い聞かせた。
ギューって頬をつねって、笑おうとした。
先生の前で泣いてちゃ駄目。
笑わなきゃって思った。
最後くらい…。

ねぇ先生…どうして私が笑おうとしてたか分かる?
フラれるって思ってたから。
最後くらい笑顔でいなきゃって思ったの。
フラれてもまだ…先生と今までどおりできるほど、私は優しい子じゃない。


「お待たせ。」

スーツ姿の先生が来た。
先生を見た瞬間、自然と涙が笑顔に変わった。

「こんばんは。」


初めは他愛ない話、沢山してたよね。
でもごめんなさい。
私ドキドキしすぎて、よく覚えてないんだ。


「あのさ…本当に俺でいいの?だって俺、下手すりゃフリーターだし。まだ学生だけど23のおっさんだし…進路未定だし。おまけに先生だし。」

先生…。
あの時の先生の声、かなり震えていたね。
だけど…まっすぐに私を見てくれた。
あのシャイな先生が。


「私…。先生が無職だってフリーターだって、きっとこの気持ちは変わりません。だって先生は先生です。もし先生の将来が駄目になったら、その時は私も一緒に頑張らせてほしいです。」

フラれるだろうけど、もう1度ちゃんと伝えたい。
もし付き合えても、きっと平らな道じゃないよね。
それでもいいの。

だって私…。

「中川先生が好きです。」

好きなんです。
もう"先生だから無理なんだ"なんて思わない。
好きなのに変わりはないから。

憧れたのは"中川先生"でも、好きになったのは、"中川絢哉"だから。

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