EGOISTE

学校から車で一時間の場所にある産婦人科は、5年程前に開業したばかりで内装がまだ真新しかった。


見るからに清潔できれいな待合室では、緩やかなクラシックが流れていて、患者の女たちが思い思いの表情で、診察室に呼ばれるのを待っている。


待っているのは女ばかりではなかった。


俺のように、付き添いで来た旦那なり彼氏なりがいる。


ここが産婦人科だからだろうか。


普通の病院とはちょっと違った幸福に満ちた空気が穏やかに流れていて、どこかしらみんな表情が穏やかだった。




でも……


俺は後悔している。


せめて鬼頭を私服に着替えさせてから来るべきだった。


鬼頭は学校の制服だったし、どうみても彼氏には見えない俺に患者たちが好奇の視線を寄越してくる。


「まずったな」


ぼそりと呟くと、鬼頭はちょっと首を傾けて、


「ごめんね?」


と小さく謝った。


表情を見る限りでは落ち着いている。


学校を出る前の不安や怯えは、今はなりを潜めていた。


少なくとも俺の目にはそう見えたのだが。


スカートの上でぎゅっと握った拳に力が入っている。僅かに震えているのも分かった。


俺はちょっとだけ眉を寄せると、鬼頭の頭をぽんぽんと軽く叩いた。




大丈夫だから。



心の中で話しかけたが、鬼頭には伝わったかな。


何に対して大丈夫なのか、俺にも分からなかったけど、今こいつに掛けるべき言葉がこれしか浮かんでこない。






「鬼頭さん。鬼頭 雅さん。どうぞ診察室にお入りください」






その声で、鬼頭は顔をあげた。





どうしてだろう。



その時の鬼頭の顔は、今まで見たどんな表情よりも美しく輝いて見えた。






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