EGOISTE

過去の女


「もぅ。久しぶりに連絡寄越してくれたのに挨拶もなし?」


白衣をまとった背の高い女がこちらに駆けてくる。


黒い髪は緩やかなパーマがかかっていて、顎のラインで切りそろえてあった。


「……綾香(アヤカ)」


俺は思わず呟いた。


「あ、さっきの先生。先生の連れってあの人なの?」


「あー、まぁ」


俺は言いにくそうに頭を掻いた。


綾香とは大学四年のときに、ほんの三ヶ月程度付き合った女だ。


それまで、女とはまともに付き合わず適当に遊んでいた俺だが、綾香の猛アタックに根負けして付き合いを始めた。


ところが三ヵ月後、綾香は「何かつまんない」というよく分からない理由で俺を振った。


まぁこっちとしてもあんまり思い入れのない女だったし、ショックを受けることもなかったが……


「何よ。昔の女に向かって随分そっけないわねぇ。その子が今の彼女?まだ学生じゃない。あんた何やってんのよ!」


綾香は腕を組むと仁王立ちになって俺を睨んだ。





俺はめんどくさそうに再びポケットに手を突っ込むと、


「ちげーよ。これは水月の……神代の女」


と言って、顎で鬼頭を指し示した。


俺の女は千夏だけだ。





今はあいつしか欲しくないし、この先一緒に歩んでいくのもあいつしか考えられない。


俺は千夏を―――






愛している。










< 123 / 355 >

この作品をシェア

pagetop