EGOISTE
過去の女
「もぅ。久しぶりに連絡寄越してくれたのに挨拶もなし?」
白衣をまとった背の高い女がこちらに駆けてくる。
黒い髪は緩やかなパーマがかかっていて、顎のラインで切りそろえてあった。
「……綾香(アヤカ)」
俺は思わず呟いた。
「あ、さっきの先生。先生の連れってあの人なの?」
「あー、まぁ」
俺は言いにくそうに頭を掻いた。
綾香とは大学四年のときに、ほんの三ヶ月程度付き合った女だ。
それまで、女とはまともに付き合わず適当に遊んでいた俺だが、綾香の猛アタックに根負けして付き合いを始めた。
ところが三ヵ月後、綾香は「何かつまんない」というよく分からない理由で俺を振った。
まぁこっちとしてもあんまり思い入れのない女だったし、ショックを受けることもなかったが……
「何よ。昔の女に向かって随分そっけないわねぇ。その子が今の彼女?まだ学生じゃない。あんた何やってんのよ!」
綾香は腕を組むと仁王立ちになって俺を睨んだ。
俺はめんどくさそうに再びポケットに手を突っ込むと、
「ちげーよ。これは水月の……神代の女」
と言って、顎で鬼頭を指し示した。
俺の女は千夏だけだ。
今はあいつしか欲しくないし、この先一緒に歩んでいくのもあいつしか考えられない。
俺は千夏を―――
愛している。