EGOISTE
「……神代?」
「そ。教育学部の。お前覚えてねぇ?」
綾香は「あぁ」と頷くとぽんと手を打った。
「何よ、あんたら。まだつるんでるわけ?仲良しねぇ」
綾香は昔を懐かしむようにちょっと笑った。
「ふぅん、神代君の彼女」
綾香は一歩踏み出すと、鬼頭を覗き込むように見た。
鬼頭が一歩後ずさって俺の後ろに隠れるように身を寄せる。
俺のシャツの背中をぎゅっと握った。
「あらら。怖がらせちゃった?大丈夫よ、とって食べたりしないから」
綾香はカラカラと笑う。
笑い方が……ちょっと…ほんのちょっとだけど歌南に似ていた。
だから付き合う気になったのかもしれない。
「神代くんも大人しそうな顔してやるわねぇ。こんな可愛い子捕まえて」
ムフフと意味深に笑う。
鬼頭の俺のシャツを握る手にぎゅっと力がこもったのが分かった。
「あ?疲れたか?帰るか……」
俺は首だけを振り向かせて鬼頭を見下ろすと、鬼頭は顔を伏せてこくんと頷いた。
「わりぃな綾香。今日はサンキュ。それじゃな」
俺は短く言って軽く手を上げると、鬼頭を先に促した。
鬼頭が歩き出す。
俺も振り返って、鬼頭の後を歩き出した。
その背中に向かって綾香が、
「誠人」
とよく通る声で俺を呼び止めた。