EGOISTE

俺は無言で振り返った。


綾香は今まで俺に見せたことのない穏やかな表情で笑っていた。


「あんた、変わったわね」


「……変わった?」


「うん。何ていうの?棘が抜けたって言うか丸くなった?」


「何だよ、それ」


俺は眉をしかめた。


昔は棘だらけで、尖ってたみたいな言い方。


「優しくなったって言ってんの。昔はこう…利己主義者的だったけど、今は違う」





利己主義者……か。




「……そうかもな」


だったら、それは千夏との関係があって彼女が俺を変えた。


もしかしたら、水月と鬼頭の二人の関係も影響してるのかもしれない。


あるいは楠兄妹かもしれない。





利害を考えずに無心で人を愛せる。



それがこんなにも簡単で、同時にこんなにも複雑だったことを……



俺に教えてくれたのは、今俺の周りにいる連中だ。




「俺はこいつらに出逢えたことを、感謝してる」



鬼頭の頭を軽く撫でると、鬼頭はちょっと驚いたように顔を上げた。




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