EGOISTE
トレード
水月は乱暴にタバコを灰皿に押し付けると、コーヒーに一口も付けず席を立ち上がった。
「水月!待てよ!!」
俺の声に水月がゆっくりと顔だけを振り向かせる。
眉を寄せ、苦しそうな表情だった。
「……ごめん。こんなの八つ当たりだ。僕は自分が雅の不調に気づいてなかった。それを棚に上げてまこや雅を攻めた。
ごめん……」
「いや…俺は医者だから小さな変化でも気づいたわけで…素人目にゃ分からねぇよ」
俺の言葉に水月はゆっくりと首を振った。
「違うよ。たぶん今彼女の近くにいるのが君だからだ……君が近くにいるから気づいたんだ…
馬鹿だな、僕も。君の様子を見に行かせるつもりで雅を君の近くに置いたけど……
肝心なところをいつも僕は間違えるんだ……」
「違う!」
俺は思わず怒鳴った。
「お前は、間違っちゃいねぇ。お前は優しいから…俺も鬼頭もその優しさに救われてる。だから言い出せないこともあるんだ。
お前を傷つけたくない思いでいっぱいなんだ」
俺の言葉に水月は眉を寄せて、うっすらと笑った。
悲しい―――微笑みだった。
「ごめん……今はちょっと…まこの顔見れないかも…頭冷やすよ」
そう言って水月は今度こそ背中を向け、立ち去っていった。
俺は引き止めることも、説き伏せることもできずにただあいつの背中を見送るしかできなかった。
チクリ……
また……胃に痛みを感じる。
こんなときまで俺の体はリアルだな。
こう言うとき、普通胸が痛む筈だろ?
でも胃の痛みは覚えのある痛みは、治まることなくどんどん痛みを増していきやがる。