EGOISTE

「酷いこと……?」


歌南は何のことを言われてるのか分からないと言った調子でちょっと小首を傾げた。


別に……期待はしてなかった。


過去に俺にした仕打ちを心に留めておいて、たまに掘り起こしてくれれば、それでいい……


そんな風に思ってた。


でもこいつはそれすらもできないようだ。


こいつにとって終わった男のことは、記憶から抹消されるってわけだ。


こっちがいくら傷つこうと、こいつには関係のないことで……




分かっていたことなのに…どうしようもなく悔しい。


怒りだとか、悲しみだとか感情は様々だけど、今はただ――――悔しい。


歌南のまとったエゴイストが妙に鼻につく。


利己主義者―――


俺は歌南と同じ香水をつけてたけど、ここまで酷くないと思うよ。


少なくとも俺の中で終わった女のことを、抹消するだけの力はない。


いつまでも記憶に残って、



いつまでも……




苦しめられる。













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