EGOISTE
電話
痛みを堪えながら、ジーンズのポケットにねじ込んだケータイを取り出す。
着信:千夏
となっていて、俺は目を開いた。
~♪
呼び出し音はなり続ける。
でも俺はケータイに出ることはできなかった。
「出ないの?」
背後で歌南が訝しげな声で問いかけてきた。
「出るよ。だけどお前一言も声を発するな。分かったな」
えー!っと歌南は不服そうに文句を垂れたが、
「いいから、黙ってろ!」と凄むと歌南は口を噤んだ。
ふっ…
バカみたいだ。今更千夏の着信に、手が震えてる。
「……も、もしもし?」
『―――誠人?私……ちょっと話したいことがあって……』
千夏の声だ。
久方ぶりに聞くその声に、知らず知らずのうちに胸が高鳴った。
胃の痛みを忘れるぐらい、俺はその声に聞き入った。
千夏の背後では騒がしい雑音が僅かに聞こえた。
どこか外で話しているのだろうか。
『あのね…今日私お休みもらったの……それでちょっと会って話せないかな?って思って…』