EGOISTE
何言い出したんだ?こいつは……
「乃亜はさ…明良兄のことが好きだからお兄のこと許したんだよね?」
いきなり話題が変わるな。
俺のことじゃなく、楠のことかよ…
「……まぁそれが大前提じゃねぇの?」
「……違うよ。好きだから許すのと、許される範囲だから好きなのと。二つは同じように見えて全然違う」
「……まぁ、確かになぁ」
好きだから許すってのは、置き換えてみれば自分が我慢するってことだ。
本当は許せないことでも、その気持ちがあるから目を瞑るってことだ。
「乃亜も甘いよ」
意外な言葉だった。
俺はちょっと目をみはって隣の鬼頭の横顔を見た。
幸いにも渋滞の上、赤信号だ。
鬼頭の白い頬に赤いテールランプが反射して、燃えるような…炎のような色を映し出していた。
それは鬼頭の内に眠る怒りが滲み出ているように思えた。
「……お前…何か知ってるな?」
俺の言葉に鬼頭がぐるりと振り返る。
鬼頭の黒い黒曜石のような瞳にランプの光りが反射して、赤い光を帯びていた。
「明良兄、未遂なんかじゃないよ。前科者だよ」