EGOISTE
鬼頭は俺の方を見るとちょっと考えるように小首を傾げた。
そして考えがまとまったのかちょっと苦い顔をした。
「……どこまでって、あたしとしては他の女の人と水月がキスするのだってやだよ。だからそれも含めて最後までってことかな」
「つまり、楠 明良はその女と……」
最後まで言うのが、何だか憚られた。
俺は楠 明良の味方じゃないが、本人が居ないところであれこれ詮索するのはどうも気が引ける。
「エッチしちゃったてわけ」
「あー……そう…。そりゃ…まぁ完全アウトだな」
「でしょ?ふざけてるとしか言いようがないよ」
鬼頭が無表情のまま視線だけを、前に向ける。
怒りをどこかに発散させたいけど、その発散先を見つけられないみたいに視線だけが奇妙に彷徨う。
「……あたし、何で浮気したのか明良兄に聞いた。そしたら……」
鬼頭は珍しく言葉に詰まった。
こいつが何かを言い淀むことなんて珍しいことだ。
「そしたら?」
俺は鬼頭に先を促した。
鬼頭の彷徨っていた視線が、俺に向けられそこからぴたりと動かなくなった。
「明良兄は……乃亜のことを変わらず好きみたい。
でも時々……何も知らない両親の前で仲の良い兄妹を演じるのが、辛かったんだって。
ううん…時々じゃない。ずっとずっと悩んで、
心が疲れてたんだって」