EGOISTE
「だから浮気を…?」
「だから浮気を」
鬼頭はまっすぐに俺を見て、静かに言い放った。
「……そういうこと……」
それなら妙に納得がいく。
ただ単に心変わりや、気の迷いなんかじゃなかった。
あいつは……
「寂しかったんだよ」
移り気なんかより、ずっと明確だ。
俺の言葉に鬼頭が目を細める。
突き刺さるような痛い程の視線。
鬼頭には理解できないだろう。鬼頭には、想像もできないだろう。
「男ってのはさ、女より大概弱い生き物なんだ。女が耐えられることでも、男だったら無理だったりする。
楠 明良は心が疲れていて、誰かに縋りたいと思ってた。
そして運よくあいつの周りにいる女が楠 乃亜と全く違う環境で、性格も正反対で、おまけに楠に気があると来たら、ふらふらっといっちまうよ」
男なら誰だって経験のあることだ。
あの水月でさえ、過ちを犯している。そして過ちを犯した後に気付くものだ。
男なんてホント………バカな生き物だよな……
俺の言葉を一言一句聞き逃さないよう鬼頭は目を細めていたが、眉間に刻まれた皺だけがやたらと深くなっていく。
怒っているのは明らかだった。
「だったら何で兄妹で恋愛なんてするんだよ。大切にできないなら、その覚悟がないのなら、一生兄妹でいた方がお互い楽じゃない」
それは……
何で人を好きになるのか?と問われているようだった。
もちろん、鬼頭にそんな気はないだろうが。
「恋愛なんて様々だろ。お前がそう思ってもあの二人には違う。
お前基準で考えるなよ」
そう―――恋愛に正しい、間違ってるなんて
ない。