EGOISTE

「これは朝顔です。これならお手入れも簡単ですし、切り花よりずっと長持ちしますので、持ってきました」


高田さんは鉢をちょっと持ち上げてにこにこ笑う。


「先生が大事にしてらした薔薇は枯れちゃいましたけど、その代わりと言うか……」


俺は……高田さんのこうゆう小さな心遣いが結構好きだ。


千夏も似たところがある。


千夏……


結局―――


千夏とは昨日歩道橋で顔を合わせて以来電話をしていない。


掛けるのが怖かった。


言い訳も用意しないで電話を掛けたら、あっさり別れを告げられそうで………


怖かった。





「……っつ」


俺は胃の痛みを覚えて、腹を押さえた。


「大丈夫ですか?私急いでお薬もらってきますね」


鉢植えを持ったまま高田さんが奥へ行こうとする。


俺はそんな高田さんを呼び止めた。


「朝顔のっ!」


高田さんがこちらを振り返る。


「………朝顔の花言葉は何て言うんですか?」


高田さんはにっこり柔らかい笑みを浮かべて口を開いた。






「愛情の絆、結束―――などです。



朝顔は夏の花ですから。きっと長生きしますよ」







夏の花―――………





千夏………








< 169 / 355 >

この作品をシェア

pagetop