EGOISTE
それでも諦めの悪い俺は何も話さないで、このままになってしまうことを避けたかった。
我ながらみっともない、と思うけど。
足掻いてみたかったんだ。
「あのさ……この後なんか予定ある?ちょっと飲みにでも行かねぇ?」
千夏は俯いて、バッグのハンドルをちょっと持ち直したりして考えているようだった。
「あー…植村さん……何か取り込んでるみたいだから、あたしらここで……」
千夏の同僚だろうか、女たちが俺たちの微妙な空気を読み取って、気を利かせてくれた。
言葉も少なめに早々と帰っていく。
「………千夏…」
「いいよ」
俺の問いかけに千夏はちょっと強い口調で被せるように答えた。
千夏は…………こんな風に強く喋る女じゃない。
こんなに低い声じゃない。
俺の知ってる千夏は―――
でも俺の前に立つ女はまぎれもなく千夏本人で………
俺の知らない口調で喋る千夏を―――
俺がただ知らなかっただけ。