EGOISTE
俺は立ち上がるのを諦めると、千夏に向き直った。
「誠人……わたしはそれだけ強烈にあなたの中に爪あとを残した彼女の存在が―――
あたしにとっては脅威なの。
怖いのよ」
そう言って千夏は顔を伏せた。
額に手をやり、何かを憚るように視線を伏せている。
「………千夏」
「それほどあたしが恐れている人とあなたは、車の中で一緒だった」
俺は拳をぐっと握った。
掌に汗を掻いている。
「だから、それは説明した通り……あいつとは何にもない!」
俺の言葉に千夏が一瞬だけ目を上げる。
眼の縁が赤くなっていて、泣き出したいのを堪えているように見えた。
「誠人は最後まで分からないのね」
最後まで………?
「おい!最後までって……俺たちこれからなんじゃないのかよ。
こんなんで終わりにするのか?」
「もうやだ……」
伏せた顔のまま、千夏は弱々しく呟いた。
消えそうなほど小さな声なのに、その声ははっきりと意思を持っていた。
その後に続く言葉が分かりきっていても、俺はそれを止めることができなかった。
「もう疲れたの。
誠人―――
別れましょう」