EGOISTE
あの後、うな垂れる千夏に何て言ったのか覚えていない。
もしかしたら、黙り込んでいたのかもしれない。
掛けるべき言葉を必死に探して、必死になって縋って。
でも、俺はそうしなかった気がする。
店の前で二人顔を合わせて突っ立ていた。
改めて別れを受け入れるのは酷だ。
「……ち」
「さよなら」
俺が何か言う前に千夏が被せるように口を開いた。
大通りに面したこの道は道路を走行する車が多かった。
にも関わらず、千夏の声がはっきりと俺の元へ届いた。
聞こえない振りをするべきだった。
聞こえても、千夏を引き止めるべきだった。
でも何か言う前に千夏がすっと手を差し伸べてきたのを見て、
色んなことを諦めた。
千夏の細い手をそっと握る。
「元気で…………」
それだけ言うと、千夏はくるりと俺に背を向けた。