EGOISTE
ケータイの向こうで少しの沈黙があった。
やがて小さく息を吸い込む音が聞こえ、
『―――うん』
と鬼頭の声が響いた。
「なっさけねぇの。別れを告げられたとき俺何にも言えなかった」
『うん』
「案外あっけないんだな……」
『………うん』
「俺、千夏を好きだった。あいつを愛してたんだ―――だけど俺の気持ちは
あいつに届かなかった」
『うん』
鬼頭はただ「うん」としか答えなかった。
でもどんな励ましよりも同情よりも、今の俺にありがたかった。
あいつの返事の一つ一つで少しずつ気が楽になっていく気がしたんだ。
でも
悲しみは決して終わらない。