EGOISTE
「先生の失恋会やるよ」
と、久々に来たってのにそれはないだろ。
まぁお陰でこっちは落ち込む暇もないけれど。
ってか、何で俺が失恋したことが他の奴らに知れてるの!!
ってなわけで、今に至る。
「確かに!真面目そうで上品な千夏は俺と不釣合いかもしれないよ!!」
隣のテーブルに座った千夏の同僚たちが、噂していたことを思い出してムカムカと腹が立ってきた。
「まぁ歌南さんと並んでた方が迫力はあるよね」
鬼頭がジンジャーエールを飲んでこともなげに言った。
「迫力!?迫力なんて必要ねぇよ!!」
「ま、まぁまぁ……」水月が必死に俺を宥める。
「あたし歌南さんて人知らな~い。きれいなの??」
楠が興味深そうに身を乗り出した。
「んー、迫力美人だよ」
「だぁかぁら!!迫力なんていらねぇんだよ。俺が求めてるのは美人!!水月、合コンセッティングしろ!新しい女作ってやる!!」
半ばやけくそに言って、俺はビールを煽った。
「合コンたって、僕女友達いないし。まこが友達に頼んだ方が早いんじゃない?」
水月が困ったように眉を寄せ、両手を軽く挙げた。
鬼頭と楠が呆れたように顔を合わせていた。
テーブルに乗せられたのは黒いボトルの日本酒は国士無双(コクシムソウ)。
いつか千夏と飲もうと思っていたものだ。
結局あいつと飲むことはなく、そのまま蓋はしまったままだったけど。
だからこそ
今飲んでやろうと思ったのだ。
「国史の中で並ぶ者はいない。天下第一の人物……かぁ」
俺は国の一番にはなりたくないけれど、千夏の一番にはなりたかったし、なっているつもりだった。
思い上がりもいいところだ。
しみじみと呟いて猪口を煽ると、爽やかな辛口が口いっぱいに広がった。