EGOISTE
こいつは―――鬼頭は俺の気持ちを見透かしている。
その大きな黒曜石のような瞳で、俺の心の中まで見ようとしている。
いつだって本心をさらけ出さなかった俺に、何も言わずとも分かってくれるのが楽だった。
「俺…初めて千夏の本当の気持ちに触れたんだ。
バカだよなぁ。最後の最後まで分からなかったって。
どうして気付かなかったんだろ……」
俺の言葉に鬼頭は小さくため息を吐いた。
「そんなん全部知ろうなんて無理だよ。人間なんだもん。
ただ先生たちは、
ちょっと距離がありすぎたのかも…」
ここの、と付け加えて鬼頭は自分の胸をトントンと叩いた。
はっ
と思わず笑みが零れた。
「確かにそうだワ」ちょっと自嘲染みた笑みを浮かべて、小さくなったタバコを地面に擦り付ける。
「俺はいつだって女との距離を測り間違える」
そう言って鬼頭から顔を逸らすと、ふわりと風が吹いた。
生暖かい夜空に吹いた風はちっとも心地よくなかったけど、それでも鬼頭の香りを運んできてくれて妙に安心した。
鬼頭は隣に居る。
そう実感できたから。