EGOISTE

こいつは―――鬼頭は俺の気持ちを見透かしている。


その大きな黒曜石のような瞳で、俺の心の中まで見ようとしている。


いつだって本心をさらけ出さなかった俺に、何も言わずとも分かってくれるのが楽だった。



「俺…初めて千夏の本当の気持ちに触れたんだ。


バカだよなぁ。最後の最後まで分からなかったって。


どうして気付かなかったんだろ……」



俺の言葉に鬼頭は小さくため息を吐いた。





「そんなん全部知ろうなんて無理だよ。人間なんだもん。



ただ先生たちは、



ちょっと距離がありすぎたのかも…」




ここの、と付け加えて鬼頭は自分の胸をトントンと叩いた。



はっ


と思わず笑みが零れた。


「確かにそうだワ」ちょっと自嘲染みた笑みを浮かべて、小さくなったタバコを地面に擦り付ける。


「俺はいつだって女との距離を測り間違える」


そう言って鬼頭から顔を逸らすと、ふわりと風が吹いた。


生暖かい夜空に吹いた風はちっとも心地よくなかったけど、それでも鬼頭の香りを運んできてくれて妙に安心した。


鬼頭は隣に居る。


そう実感できたから。














< 190 / 355 >

この作品をシェア

pagetop