EGOISTE
でも結局俺は来ている。
何故歌南の言いなりかって?
あいつには面と向かって断りを入れたいんだよ。
もう俺にちょっかいかけてくるな!とも言いたい。
歌南が指定してきたのは街の中心にある若者向けのクラブだった。
何が起きるか分からないので、当然車は病院に置いてきてある。
わざわざ電車で行く程か?とも思ったけど、俺は人の波に…あるいは歌南に流されるように電車に飛び乗った。
幸いにも胃の痛みは治まっている。
ここ2、3日は全くの無痛と言うわけではないが、痛みは穏やかに引いていた。
このまま投薬だけで何とかなりそうだ。
その油断もあったかもしれない。
耳をつんざくような激しいロックの音が店中に響いていて、男も女も思い思い踊っていたり、酒を飲んだりしている。
薄暗く照明を落とした室内に、青を基調としたライトがいったりきたりしていて、それだけで酔いそうだった。
せせこましい箱の中で俺は人の波を縫ってキョロキョロと歌南の姿を探す。
「あ、すみません」
若い女が一人派手にぶつかってきた。
「いえ」
俺は軽く手を上げ、先を急ごうとした。
その行く手を女が阻む。
「ねぇ?一人?結構…ううん、あなたかなりイケてる♪一緒に飲まない?」
派手なメイクで飾った顔を緩ませて、女は俺を熱っぽく見上げてきた。
女の肩越しに丸いテーブルが並んだ席が見える。
耳から入る音が消えて、そこだけスポットライトが当たっているかのようにきらきらしている。
何でこんな風に簡単に見つけてしまうのだろう。
俺は見てはいけないものを見てしまったかのように、苦笑を浮かべた。
テーブル席で歌南が腰掛けて酒を飲んでいたのが分かったからだ。
「悪いけど、連れがいるんだ…」
俺の言葉に女は残念そうに唇を尖らせながら、去っていった。
俺に気付いた歌南が手を振ってくる。
「まこ!」
激しい音楽の中なのにその声は妙に響いた。