EGOISTE
千夏―――
俺の時間は止まってなんかいない。
俺は歌南に去られたときに、自ら自分の時計を―――捨てたんだ。
それは歌南との歴史を刻んだ時計であり、時間を巻き戻してあいつとの過去を懐かしむことも、もうない。
傷ついたままじゃないんだ……
だけど、俺はお前との時計を捨てられることはどうしてもできない。
「俺が好きなのは後にも先にも千夏だけだ。あいつ以外欲しくない」
俺は歌南を見据えてきっぱりと言い放った。
歌南はちょっとだけ目を開いて、マスカラで伸ばした長い睫を上下させた。
俺の言葉に怯んだ様子はなかった。
こいつはいつだってそうだ。
俺の一挙一動で、泣いたり笑ったり、心を動かされることはない。
いつも俺より一段高い場所で、俺を見下ろしている。
まるで雄大な景色を見下ろすかのように、うっとりと……
でもその視線はいつだって支配的だ。