EGOISTE
過去
――――
20年前の……そのときも夏だった。
俺がまだ5歳のときだった。
その日は真夏だと言うのに、妙に空気がひんやりと澄んでいた。
明朝……空がまだ明るくなる前。
パタン
静かに扉を閉める音がして、俺は目を覚ました。
眠りが浅かったわけではない、ただ本当にその音は俺の耳に大きく響いたんだ。
後から考えると、これが虫の知らせってヤツだったのか。
パタパタパタ……
スリッパが床を駆ける音がして、俺はいぶかしんだ。
ひどく慌ててる。
何だろう?
本当に小さな疑問だったのだ。
ガチャ
自室の扉を開けると、母親とばっちり目が合ってしまった。
はっとした様子で目を開いている。
母はアイボリーホワイトの上品なスーツ姿で、大きなボストンバッグを提げていた。
「おかあさん、どこかいくの?」
どう見ても外出着の母親にそう問いただしたっけ?
「ごめんね。誠人。ごめんね」
母親はそれだけ言うと、ぱっと振り返り玄関口へと走っていった。