EGOISTE


水月は10分足らずで飛んできた。


あいつの走っていた場所から考えると、20分以上を覚悟してたけど、相当飛ばしてきたんだろうな。


「…まこ。大丈夫?」


多くを説明しなかったけれど、緊急事態だと言うことを察したらしい。


車を降りると、すぐに俺に駆け寄ってきた。


助手席の開いた窓から、ロングコートチワワのゆずがちょっと顔を出している。


どうしたの?大丈夫?


ゆずにまで心配された気がして、何とも情けなかった。


「大丈夫…じゃねぇ」


盛大にため息を吐くと、俺はのろのろと立ち上がった。





水月は車を発進させ、俺のマンションの方へ向かったが、俺は横からハンドルの向きを変えた。


「?まこの家はあっちだよ?」


俺は口元を押さえると、青ざめた顔で水月を見た。


「そこまでもたねんだよ。お前んちの方が早いだろ」


「…う、うん」


水月は曖昧に返事をして、俺の言われるままにハンドルを切った。


俺の膝の上にはゆずがちょこんと乗っかっている。


開けた窓から風が差し込み、俺の髪やゆずの長いふさふさした毛をなびかせていた。


ゆずは俺の腕の中でキョロキョロと視線を動かせている。


ドライブは?もう終わり??


そう聞いているようだった。


「悪りぃな、ゆず。今日はもうゴーホームだ」


ゆずのすべすべした頭を軽く撫でると、ゆずは納得したように目を細めて俺の腕に擦り寄ってきた。


隣で水月が無言でハンドルを握っている。



ゆずが



人間の女ならいいのに。



見返りを求めず、素直に愛情を示してくれる


そんな女なんて



この世にいない。







俺は水月のマンションに着くまで、目を閉じていた。










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