EGOISTE
それから鬼頭は10分も経たないうちに到着した。
鍵は開いたままだから、そのままドアを押し開けて乱暴にサンダルを脱ぐ音がし、バタバタと足音が聞こえたと思ったら、
バン!と、これまた乱暴にリビングのドアを開ける音を立てて鬼頭が顔を出した。
鬼頭はソファの下に膝を立てて座っている俺と、ソファに横たわって…一見して眠っているように見える水月を見比べ、視線を険しくした。
「どういうこと?」
「あー…ちょっと喧嘩?で、こいつの首固めたら…」
「固めたら?」
鬼頭はつかつかと歩いてくると、俺の襟首を掴んで睨みあげてきた。
「落ち着けって。失神してるだけだよ。立ってるときに倒れたわけじゃないから、外傷もないし呼吸も脈も異常なしだ。
それより買ってきたのか?アンモニア」
「あ…うん」
鬼頭は俺の襟から手を離すと、提げていたビニール袋の中をガサガサとまさぐった。
「これでいいの?」
そう言って取り出したのは50mlほどの白い容器に入ったアンモニア水だった。
「充分だ」
外のプラ包装を破り、キャップを開けると、独特のつんとした臭いが漂う。
「ひっどい臭い」
鬼頭が鼻をつまんで、掌をひらひらさせる。
鬼頭の言った通り、部屋中に独特のつんとした異臭が立ち込める。
俺はその容器ごと水月の顔に近づけ、整った鼻梁に持っていった。
鼻の粘膜をその独特な刺激臭が刺激したのか。
効果は抜群だった。
水月は眉間に皺を寄せると、瞼を震わせた。
「……ん!」
と小さく声を漏らし、水月が瞼に皺を寄せ、睫を震わせた。