EGOISTE
水月は胸の前で腕を組むと、俺をちょっとだけ睨む。
元来が優しい顔つきだから睨まれてもちっとも怖かないけど…
「もっと早くしてくれれば…」と小さく舌打ちして水月は顔を背けた。
って、おいおいおいおい!!
怖い!すっげぇ怖い!!!
水月、悪いけど俺にはソノ気が全くない!
キスしたのだって、何ていうか若気の至り?って言うか不安でどうしようもなかったんだ。
体を繋げる…と言うよりもこいつとは心で繋がっていたかった。
確かなものなんてどこにも存在しない気がして、俺は怖かったんだ。
だから手を出した。
そんなことしてもどうにもならないって分かってたのに……
俺のそんな気持ちを知ってか知らずか、水月はにっこり微笑んだ。
「なんてね♪ホントのところはどうか分かんない。でも、ぐらって来たのは正直な気持ち」
そう言って目を伏せていたが、口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。
「大体さ、男なんて女性より何倍も不器用なんだから、そう簡単に前の気持ちを忘れることなんてできないよ。例え新しい彼女が居ても前の恋人のことをふっと思い出したりもする。
まこが一番分かってるんじゃない?
強引に忘れようとするのは無理だからさ。心の引き出しにしまっておくの。そのときの気持ちや出来事は確かなものだし、
大切に…大切に……それでもいいんじゃない?」
歌南のこと忘れなくてもいい。
千夏のことを忘れなくていい。
俺は誰かにそう言ってほしかったのかもしれない。
誰かに分かってほしかったのかもしれない。
俺の気持ちを一番分かってくれるのは、一番近くに居て一番色々なことを共有してきた
たった一人の親友―――
水月だった。